先日、相方のお迎えを待つ間、路肩に座って本を読んでいるところ、やたらと目の前をうろうろする男が現れた。ちらっと見るところ、アジア人っぽいのだが、髪の毛は金髪で、とにかく服装が汚い。ちょっと怪しそうだと思って無視していたら、いよいよ話しかけられた。
「すみません。シンディー・シーハンが逮捕されたの、知ってます?」
シンディー・シーハンというのは、今アメリカで話題を呼んでいる(?)、イラク戦争で息子を亡くした母親で、ブッシュ大統領に抗議するためにテキサスの大統領邸近くでテントをはって抗議活動をしていた女性。その後は全米ツアーに出かけているようで、先週末はここキャピタルにも来ていた(すごい人数が集まっていた)。
私個人的には、彼女の気持ちは痛いほど察するけれど、大統領邸でキャンプをしたところで、この国の態勢が変わるわけがない、という考え(冷たいけれど)。もちろんメディアを通じて政府に圧力がかかることは確かだけれど、この国の奥深い仕組みを知らずに(もしくは無視して)デモ運動をしてもあまり効果がないのでは...と思う。
先週末の戦争反対デモは、ちょうど予定があって見学に行けなかったのだけど、うちの近所にもプラカードを持った人たちがウロウロしていた。次の日にテレビでデモの様子を見て、皆の訴えていることがすごく心に響いて涙が出たけれど、それが彼らの背景にあるキャピタルの人たちに響いたかどうかは疑問である。
もちろん、Civil Rights Movementとか、あの頃のデモ運動というのは(年月はかかったものの)ものすごくパワーがあったのだと思う(先述したアンジェラ・デービスの本にもあったように)。でも私が今日のアメリカで実際に目にするデモ運動というのは、なぜか「デモ好きな(ちょっとヒッピー寄りの)(主に白人の)人たちの集まり」にしか見えないことが多かった。つまり、デモの内容や動機にあまり重心がおかれておらず、何に対しても「デモをすること」に意義がある、そういう雰囲気が伺えた。
シンディーさんの姿はメディアでもよく取り上げられていてニュ−スでも何度も見たことがある。もちろん訴えていることはわかるし同情はするけれど、何かこう心に刺さらないものがある。私的には、軍隊に入隊した息子が不運にも戦争で死んでしまうことは、確率的にしたら土方をしている息子が工事現場で事故死するよりもはるかにあり得るわけで...問題なのは、この国のオペレーションのもっと根本的な部分にあるというか、理不尽な戦争しかしない大統領だとわかっているなら、息子(もしくは娘)が軍隊に入隊せずにすむ方法、そういうシステムを作っていくしかないのでは、と思う。それが可能かどうかは別問題だとして...
うまく説明できないのだけど、私は「戦争反対デモ」をする人たちにも、「戦争賛成。軍隊万歳」とデモする人たち(先週の戦争反対デモの次の日に戦争支持デモが開催されていた)にもどちらにも完全に同感できない。もちろん戦争は悪いことだと思うし、私も絶対に大反対。そして、軍人さん達は入隊したのであればお国のために頑張ることは素晴らしいことであって、国民としては感謝しなければならないことだと思う。でも、戦争反対デモをキャピタルの前でしても、残念ながら「それがきっかけで」戦争は終わらないと思うし(この政府の特徴からして)、だからと言って、「軍人達に感謝しよう」というのは理解できるとしても、それが「大統領万歳」にはつながらないと思う。軍隊を支援することと、大統領を支援することは、私の中ではまったく別問題で、それと同時に、支援しないからデモをする、という行動も私の中では効果があるとは言えないのである(今の時代では)。
極端に理想主義なことを言ってしまうと、「争わなくてもやっていける世の中」を違う角度から作らなければ、今の問題は解決されない、ということだろか。人間の性質からして不可能なことかもしれないけれど...
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話はそれたが...この一見アジア人ぽい男性。
彼曰く、「シンディー・シーハンは、アジア人差別主義者」だそうだ。
私は彼女のデモ運動やコメントをいちいち追っていないので、彼女がどんなコメントをしたのかあんまり知らないのだけど、彼曰く、「アジア人には指導者になる能力がない」と言ったらしい(本当かどうかは不明)。
「彼女、いつもパンダのぬいぐるみを持っているでしょう?」
と聞かれたが、私はその印象もまったくなかったので「知らない」と答えた。
「あれは、アジア人(パンダ=中国)を軽視している象徴なんだよ。」
へ〜〜〜〜〜〜〜。嘘か本当かは知らないが、そんな見方ができる彼の思考回路が新鮮だった。
「彼女を支持する人は、彼女同様に逮捕されるべきだと思うんだよね。だから支持しちゃだめだよ。アジア人は差別されてるんだから。とにかく、Let your sistas know what's going on.」
「僕のグランマは中国人だったんだ。話を聞いてくれてどうもありがとう。」と丁寧にお辞儀をして去って行った。
最近すごく感じるのは、選択肢が二つしかない、ということ。
例えば、
民主党 VS 共和党
黒人 VS 白人
戦争反対 VS 軍隊万歳(=大統領万歳)
「どっち側にも属したくない(もしくは属さない)」自分の意見を持った個人はどうすればいいのか...
私は「団結すること」に絶対的なパワーがあると信じている人間だが、この今のデモ運動にはなぜか、Civil Rights Movementの頃のようなパワーが感じられない。なぜだろう?そういう過去の貢献に対してどこかで美化している自分がいるのかもしれない。
今度シンディーさんをテレビで観たらパンダのぬいぐるみを確認しなくては...